何年か前に鎌倉五山第一位とされる建長寺の坐禅会に通っていました。管長の吉田正道さんが坐禅指導や講話をされることがあるからです。80歳を超えるご高齢なので、滅多にお目に掛かれませんが、その佇まい、言葉の深みから、行を積み重ねることの意味を存在で示してくださる方でした。
山伏の世界でも得度されている方は沢山おられます。しかし、実際に山に入り行を積み重ねておられる方は一握りなのが実態の様です。これまでの奥駈でお会いした山伏の方達は行を重ねている素晴らしい方ばかり。
2年前の奥駈の際に深仙でお会いした熊野修験の柴田先達もそのお一人。仙人になることよりも、修めたことを世の中に還元していく。自利の行から利他の行への転換期を迎えておられる行者さんです。今回の大峯奥駈では12日間山に籠りましたが、偶然にも日程が重なり、前鬼山での三日間を柴田先達とご一緒させて頂きました。
これまでの奥駈といえば、木や岩や植物に話しかけたり、鹿などの動物や鳥の鳴き声に合わせて一緒に鳴いて遊ぶという一人きりの旅。柴田先達を慕う後輩行者のお二人を含めて四人での行場巡り。人と話せる、分かち合える。こんな当たり前のことが、とても楽しくて嬉しい。奥駈していて、笑い合うなんて初めての経験でした。
そして、毎晩開かれる直会という名の飲み会。お酒が入ると翌日の感覚器官が鈍くなるので、山ではご法度にしてきましたが、交流の楽しさを優先してとにかく飲んで食べる。
木喰(五穀断ち/木の実と果実)、水、ハチミツ、梅肉だけで過ごして来た日々だったので、ほうれん草のお浸し、豆腐、自家製味噌のお味噌汁が五臓六腑に沁み渡ります。
直会での中心は前鬼の宿坊小仲坊 61代当主 五鬼助義之さん。五鬼助さんは大阪の寝屋川にご自宅があり、平日は大阪の会社に務めながら、週末は1300年の伝統ある宿坊を夫婦で守り続けるという、菩薩行を長年続けてこられたお方。
休日であるはずの土曜日の明け方に自宅を出て、酷道と呼ばれた道を片道4時間をかけて、下北山村の前鬼山まで長年にわたり通い続けてこられました。会社員をしながら、なぜそんなことを続けることが出来たのか。五鬼助さんのお話しを聴いてみたかったのです。
五鬼助さんご夫妻が口を揃えて言われたのは、『だって楽しかったから』でした。共働きで休日もなく、子育てもしながらこれだけ大変なことを楽しいと言われる当主。普通の女性でしたら、冗談じゃないと言いかねないところを楽しいと感じている奥さん。1300年の歴史がある宿坊を守るに相応しいご縁で引き合っているご夫妻。
そして、息子さんも62代当主として継がれるべく僧籍を取られたのだとか。大峯山に次ぐ修験の大拠点である前鬼は守られているようです。
自分と社会との関係を考えると、還元できているのだろうか、役に立てたのだろうかと気にしてしまう傾向があるけど、瞑想会や講座をやっている時は単純にたまらなく楽しい。そんなスタンスでいても何らかの還元ができている可能性は十分にある。
あれこれ真面目に考えすぎなくても『だって楽しいから』でも大丈夫。そんな示唆を五鬼助さんご夫妻から頂いた気がします。
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